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A型事業所の挑戦(上)〜東京新聞より〜

 障害者の大量解雇問題を受け、あり方が問われているA型事業所。障害者がする事業で利益を上げ、事業所も安定し、利用する障害者も継続的に働ける場とするには、何が求められるのだろうか。
<就労継続支援A型事業所> 一般就労が難しい障害者が事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の時間給で働く。2006年に制度が設けられた。支援する職員の人件費などに充てる給付金などが国から支給される。営利法人の参入も認められ、13年4月の全国約1,600カ所から、17年4月には約3,600カ所に急増した。同年夏には、名古屋市など全国6カ所でA型を運営する会社が破綻し、計約150人が失業した。岡山県倉敷市や広島県の福山、府中両市などでも同様の問題が起きた。

目指せ「脱・内職」

 カチャカチャ、カンカン-。名古屋市西区の「サイクルサービスなごや」の作業場に、金属をたたく音が響く。
 この作業所は、障害がある人が働く就労継続支援A型事業所(A型)。同じ名称の一般社団法人が運営する。雇用契約を結んだ障害者(利用者)たちが最低賃金以上の時間給を得て、放置自転車を整備し直して販売している。車体のさびを落としたり、部品を交換したり。おしゃべりする人もなく、皆、目を皿にして自転車を見て手を動かす。
 現在の利用者は精神障害者を中心に19人で、障害がない人の支援を受けながら一日四~五時間働く。1台完成させるのに、早い人で3日はかかるが「入社後1カ月ほどで、私が横につかなくても作業ができるようになる」と、指導員の岩田一磨さん(27)は言う。
 A型をめぐっては昨年、名古屋市や岡山県倉敷市などで事業所が破綻し、利用者たちが解雇される事案が続いた。これらの事業所では、本業で利益を出せず国の給付金頼みの運営となっていたところ、国が給付金の使い方を厳格にしたことなどで、行き詰まった。障害者の労働環境の向上などに取り組むNPO法人「共同連」(名古屋市北区)によると、全国で7割以上のA型が赤字に陥っているという。それに対し、サイクルサービスは堅実にもうけを上げている事業所だ。
 とはいえ、最初は給付金に助けられた。「お客さんが付くまで時間がかかる。普通の会社なら赤字だが、A型だから運営できた」。運営する法人の代表理事、稲葉勝哉さん(45)は振り返る。
 当初は、仕事の確保に必死だった。壁紙の端材を利用したエコバッグ作りなどの内職もした。利用者が増え、自転車事業だけでは仕事が足りなかったからだ。しかし、体を動かし集中して働き、元気になっていく人たちを見て、同じ作業を繰り返す内職は「利用者のためにならない。単価も合わない」と1カ月でやめ、生き生きと働ける仕事を探した。
 求人広告に名古屋駅周辺にあるビジネスホテルの清掃の求人が常に載っているのに目を付け、営業をかけた。「精神障害者は突飛な行動をするイメージがあるかもしれないが、礼儀正しく真面目な人も多い。薬で動作がゆっくりになることもあることなど、ホテルの担当者にしっかり説明した」と話す。現在はホテル2軒と契約し、利用者は自転車と清掃の仕事を交互にこなす。
 1年半前から働く30代女性は、発達障害とうつ病がある。以前勤めていた別のA型では一日四時間、くぎの袋詰めをしていた。「単調な作業だと、余計なことを考えて精神的にしんどくなる」と転職してきた。「目の前の仕事に集中できるし気持ちが楽」と笑う。
 作業所には、自転車を求める客も来る。「お客さんの顔が見えると、ぴりっとした空気になる。『もうちょっときれいにしよう』とか、そういう気持ちが出てくる。その結果、自転車の品質が高くなれば、値段を高くしても満足してもらえる」と岩田さんは話す。

A型事業所の挑戦(中)〜東京新聞より〜

働く喜び実感

 パンを成形する職員たちの後ろで、障害がある男性がうろうろしている。作業の進み具合を気にして、時折職員たちの様子をうかがう。男性の仕事は、パン生地を入れた箱が空になると、すぐそばの流し台まで運ぶこと。
 「もう1個、お願いします」。職員から声が掛かり、男性の出番がきた。両手で箱を抱えて流し台へ。箱を洗うのはまた別の障害者。パンを焼く型の焦げ付きや汚れを取り、油を塗るなど、障害者が担当する仕事はさまざまだ。
 「成形に時間がかかると、パンの発酵が進み膨らみ方が変わってしまう。成形は誰にでもできるわけではないけれど、全体の工程を細分化し、障害者がやれることを増やしている」。名古屋市北区の障害者就労継続支援A型事業所「ベーカリーハウスわっぱん」の工場長笠原勝巳さん(43)は話す。
 火に掛けた小鍋の前で、じっとしている女性も。「彼女は耳が聞こえないが、ゆで卵を作る係。働きづらい人にも、工夫して仕事をつくるのが僕らの役目」と、笠原さんはほほ笑む。
 職員22人中、障害者は14人。知的が多いが、精神や身体の人もおり、1日の労働時間は8~7時間。「障害の程度は関係なく全員が同僚。2年ほどのキャリアの僕から見たら、皆が先輩。一緒にできることを考えて働くだけ」と笠原さんは言う。
 パンは生協などへ卸したり、路上で販売したりしている。工場内のホワイトボードには「クロワッサン750グラム、バゲット一キロ、くるみパン4キロ」など、その日に作る分がずらりと書き出されている。健常者の職員がボードを見て動くと、障害者の職員も一緒に作業する。障害のある人もない人も、スピードは違うが黙々と作業する。滞っている仕事があると、お互いに手伝う。
 2年半前から働く伊藤亜希子さん(40)は一般企業に派遣社員として勤めていたが、うつ病を患い、障害があっても療養しながら勤められる職場を探していた。「他のA型は、内職をしているところが多かった。それまで一般企業などで働いていたのに比べると、物足りなかった」。ここに来てからは、派遣の時より給料は減ったが「1日8時間の労働に見合っていると思う。指導員と利用者という関係ではなく、フラットな関係性がいい。あせらされることもなく、無理なく働ける。長く続けたい」と働きやすさを感じている。
 知的障害がある天野洋志さん(41)は、働き始めて27年になるという。「月曜から金曜日まで働いているが、仕事は楽しい。だから、休みの日はさみしい」と話す。
 このA型では、まずは利用者が興味のある仕事をやってみて、一人一人が得意なこと、やれることを職員たちが見つけている。笠原さんは「意思表示が苦手な人でも、日ごろの付き合いがあれば分かる。それは障害者でも健常者でも同じ。パン作りも、僕も最初からうまくできたわけではない。障害者も一緒で、少しずつできることに慣れていったらいい」という。
 しかし、笠原さんは、利益を出そうと努力しているA型を後押しする仕組みが不足していると感じている。2013年に障害者優先調達推進法が施行され、国や市町村は物品調達で障害者就労施設などを優先すると定められたが、同法が浸透してきたという実感はない。「法律を周知し、さらに障害者が働く喜びを感じ、一般の人が満足する商品やサービスを提供しているA型がもうけやすいシステムを作ってほしい」と話す。

A型事業所の挑戦(下)〜東京新聞より〜

やる気ある組織支えて

 名古屋市北区の「ベーカリーハウスわっぱん」など、同市内の3カ所で障害者就労継続支援A型事業所(A型)を運営する斎藤縣三さん(69)は、A型という制度の問題点を指摘し国などに改善を訴えている。各地のA型で障害者の大量解雇が相次いだ問題からは、国からの給付金頼みで運営し、障害者の仕事は内職などの単純作業ばかりという事業所が少なくないことが浮かび上がった。障害者と健常者がともに継続して働く場をつくっていくには、何が必要なのか聞いた。
 -A型という制度をどう思うか。
 A型が導入された2006年以前、障害者が働けるのは授産施設と福祉工場だった。福祉工場では障害者が雇用契約を結んで働き、最低賃金が保証されていた。国の補助金が支払われていたが、全国で最大100カ所ほどしかなかった。補助金があっても障害者を雇って、経営を成り立たせるのは大変だからだ。国もそれを分かっていたのに、2006年の障害者自立支援法(現障害者総合支援法)施行以降、福祉工場をA型に継承させ、営利企業もA型を運営できるようにしてしまった。
 就労継続支援の「継続」は、一般企業で働けない障害者に就労環境を提供し、社会で活躍する場所をつくり続けるという意味。事業所は、障害者がずっと働ける仕組みと、支援できる人材を作らないといけない。新たにA型に参入した事業者の中には、国の給付金などを目当てに「軽作業で最賃保証」などとうたって障害者を募り、障害者を支援する職員は「時給1,000円、未経験可」と募集するところもあった。
 そういう経営者は短い時間で労働者を雇い、人件費や光熱費を抑え、自分のもうけを増やすことを考えるだけで、障害者が安定して働くことを考えない。A型は障害者を理解し、仕事をすることで成立する。営利目的で簡単に立ち上げてはいけない。
 -斎藤さん自身がA型をつくったわけは。
 1970年代、大学生のころ、ボランティアで障害者施設を訪問していた。人里離れた山の中の施設で、健常者が先生になり、障害者が規則通りに動かされるのを見て「こんなところに障害者を預けるのはおかしい」と思った。まちの中に、障害があってもなくても一緒に働ける環境をつくりたくて、72年に名古屋市内で共同作業所を始めた。
 最初は内職や近隣の農家から仕入れた卵の販売などをした。パンの製造に行き着いたのは80年代。私が愛知県春日井市のパン店で半年間修業し、中古の機械一式をそろえ、84年に障害がある人と2人でパン作りを始めた。生協などから引き合いがあり、販売ルートも確保できた。添加物を使わず、手作りするパンは口コミで注文が舞い込んだ。生産量が増えるほど、作業も多くなるし、障害者の仕事を作ることができる。
 -給付金を利用者の給料に充てないようにとの厳格化で「よいA型」は増えるか。
 一般企業などへの就職が難しい人を受け止めようと思うと、事業の利益で給料を払えるようにしっかり稼ぐことが必要。障害者の受け入れと利益の確保を両立させなくてはならないA型は難しい。一生懸命やっているのに赤字で、給付金を障害者の給料に充てているA型もある。
 企業に就職できない人を支える仕組みとしてA型は必要だが、基準を厳格に適用しすぎると、やっていけないA型も出てくる。一つのA型だけで運営するのは大変なので、共同受注、販売の仕組みを確立したい。やる気のあるA型をいかにすくい上げるか、行政にも協力を頼んでいる。

<さいとう・けんぞう> 1948年、津市生まれ。全国で障害のある人、ない人がともに働く事業所でつくるNPO法人「共同連」(名古屋市北区)事務局長。NPO法人「わっぱの会」(同)理事長として、名古屋市などでA型などの事業所計6カ所を運営する。2017年2月に「Aネットあいち」を立ち上げ、前向きなA型が協力する体制づくりに努める。